

「観光県香川の象徴となる県庁を建てたい」
当時の香川県知事だった金子正則氏が、建築家・丹下健三氏に伝えたとされる言葉。
「民主主義時代に相応しい庁舎を建てたい」と考えていた金子知事。彼が出張の際に出会ったのは香川県出身の洋画家・猪熊弦一郎氏。いい建築家がいる、と彼に推薦されたのが丹下健三氏だった。
ここから始まった、香川県庁舎東館。
民主主義という戦後の新時代の幕開け。
主権は国民にあるという自由な選択肢が許された時代の県庁舎ということで、丹下氏はこの香川県庁舎を建てるにあたり、近代建築の5原則を用いて自由を表現している。

近代建築の5原則とは…
ル・コルビュジェが唱えた建築のセオリー。「ピロティ」「自由な平面」「自由な立面(ファサード)」「水平連続窓」「屋上庭園」の5つ。鉄筋コンクリートで建築できるようになり、構造としての壁の制約がなくなり、開放感のある、機能的かつデザイン性の高い建物を作ることができるようになった。

ピロティ。
道路すぐに面しており、気づいたら県庁の敷地だった、と思うぐらいスムーズなアクセス。
来るもの拒まず。県民に開かれた空間の象徴とも言える。
コンクリートの柱は木目調。道路から見える太さを変えるなど、威圧感がないよう工夫されている。


自由な平面。
センターコアと呼ばれる中央部分。ここにトイレや階段などの共用設備を集めることにより、外周の壁をなくし、自由に部屋を設置できる。現在の庁舎建築のお手本となっている。
水平連続窓。
自由な平面に水平連続窓を設置することにより、さらに開放感のある空間を作り出すことができる。


自由な立面(ファサード)。
立面とは、建物の外観。建物の顔である。
コンクリートでありながら、日本の木造建築を思わせる柱梁と、勾欄付きのベランダ。
屋上庭園。
屋上は現在開放されていないが、完成当時は喫茶スペースがあり、県民の憩いの場であったという。

工夫が凝らされたロビー

入った瞬間、現代美術館に迷い込んだかのような開放感。

全面ガラス張りの1Fロビー。
外との一体感を強調するために、窓枠はわざと床面から10cm浮かせて設置されている。
ロビーに置かれているスツールやベンチは丹下研究室のデザインで、建築当初からずっと使われている。
丸いスツールは陶器製。信楽で作られたもの。

「和敬清寂」

1Fロビーの巨大壁画で猪熊弦一郎氏作。
和敬清寂とは茶道の心得であり、平たく言えば、茶室の中にいれば皆平等ということ。

猪熊氏はこの『和敬清寂』を日本のあるべき民主主義の精神と表している。
デザインも建物との調和を考えて作られており、赤の色彩はこの建物のコンクリートを流れる血液のようなものとして表現している。

金子知事・丹下健三氏・猪熊弦一郎氏の3人により、新しい民主主義の夜明けを祝い、自由の象徴として見事に調和された香川県庁東館。どんな物事も小さく見えてしまうような圧倒的なその存在感は、今後も人々へ影響を与え続けていくことだろう。
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